公文書館法解釈の要旨
平成元年6月1日内閣官房副長官
第1条(目的) 国及び地方公共団体は、歴史的資料として重要な価値を有する公文書等を国民の共通の財産として継続的に後代に伝えるために、これら公文書等の散逸、消滅を防止し、これを保存し、利用に供することが極めて重要であるという基本認識を示したものである。
第2条(定義) 「公文書」とは、公務員がその職務を遂行する過程で作成する記録を、「その他の記録」とは、公文書以外のすべての記録をいい、また、これらすべての記録の媒体については、文書、地図、図面類、フィルム(スライド、映画、写真、マイクロ等)、音声記録、磁気テープ、レーザーディスク等そのいかんを問わないものである。したがって「その他の記録」には、古書、古文書その他私文書も含まれることになる。
 公文書その他の記録は、国又は地方公共団体が保管しているものを指し、国又は地方公共団体であれば、いかなる機関が保管していてもよく、また、他の国又は地方公共団体の機関が作成したものであってもよい。
 「現用」とは、国又は地方公共団体の機関がその事務を処理する上で利用している状態にあることをいい、頻度が低い場合でも本来的な使用がなされていれば、これに該当する。したがって、「現用」であるかどうかの判断は当該国又は地方公共団体の機関が行うことになる。
第3条(責務) 「歴史資料として重要な公文書等」とは、国及び地方公共団体が歴史を後代に伝えるために重要な意味を持つ公文書等のことをいうが、それは、具体的に何がそれに該当するかという厳格な客観的基準には本来なじまない性格のものである。
 例えば、国及び地方公共団体の機関において文書管理上永久保存とされているものについては、一般的にその多くが歴史資料として重要な公文書等に該当するということができるが、歴史資料として重要な公文書等はこれに限られるものではなく、有期限文書その他の記録の中にもそれに該当するものが存在するというべきである。
 「利用」とは、展示、貸出等も考えられるが、基本的には閲覧である。
 「責務」とは、法律上の「義務」とは異なり、国及び地方公共団体が、公文書等の歴史資料としての重要性にかんがみ、その保存及び利用に関し、それぞれが適切であると考える措置をとる責務を、本来、国民及び当該地方公共団体の住民に対し負っているということを確認する趣旨のものである。それ故、その責務を果たしているかどうかの判断は、国及び地方公共団体のそれぞれが自ら行うものである。
 また、本条の責務は、国の場合、行政府のみならず立法府及び司法府も負うことになる。
第4条(公文書館) 第1項は、本法に定める公文書館とは、歴史資料として重要な公文書等の保存、閲覧及び調査研究を単にその業務として行う施設ではなく、これら三つの業務を行うことを目的とする施設であることを明示したものである。
 「閲覧」については、公文書館が、国又は地方公共団体が国民又は当該地方公共団体の住民に対して負っている第3条の責務を果たすために設けられる施設であることから、調査研究が目的である者についてのみそれを認める等、目的による合理的な制限を設けることを妨げないが、目的のいかんにかかわらず、特定範囲の者にだけ開放するというものはここでいう「閲覧」ではない。
 「これに関連する調査研究」とは、「歴史資料として重要な公文書等に関連する調査研究」のことであるが、それは単なる学術研究ではなく、歴史を後代に継続的に伝えるためにはどのような公文書等が必要であるのかという判断を行うために必要な調査研究が中心となるものである。
 第2項は、公文書館には、統括責任者としての館長、歴史資料として重要な公文書等についての調査研究を行う専門職員その他必要な職員を置くこととしている。
 「歴史資料として重要な公文書等についての調査研究を行う専門職員」とは、歴史を後代に継続的に伝えるためにはどのような公文書が重要であるかという判断を行うために必要な調査研究を主として行う者をいう。いわば、公文書館の中核的な業務を担当する職員であり、公文書館の人的組織においてはきわめて重要な存在である。
 このような専門職員に要求される資質については、歴史的要素と行政的要素とを併せ持つ専門的な知識と経験が必要であると言えるが、現在の我が国においては、その専門的な知識を経験の具体的内容については未確定な部分もあり、また、その習得方法についても養成、研修等の体制が整備されていない状況にある。したがって、任命権者としては、当面、大学卒業程度の一般の職員との比較において、いわば専門的といいうる程度の知識と経験を有し、上記の調査研究の業務を十分に行うことができると判断される者を専門職員として任命すればよいということになる。
第5条 第1項は、公文書館の設置主体を明確にしたもので、公文書館を必ず設置しなければならないことを定めている規定ではない。本項の趣旨は、責務を有する者が自らの責務を他に委ねることなく自らの責任で果たすことを期待するもので、民法法人等に依頼して設置する施設、私設のものなどは本法の公文書館とはならない。
 第2項は、地方公共団体の設置する公文書館は、究極的に住民の福祉を増進するための施設であり、地方自治法上の公の施設としての性格を有していると考えられるので、その設置については条例で定めなければならない旨を確認したものである。
第6条(資金の融通等) 本条は、第3条の歴史資料として重要な公文書等の保存及び利用に関する責務を果たす上で公文書館の設置がもっとも望ましい措置であるという考え方から、地方公共団体の公文書館の設置に関し、必要な資金の融資又はあっせんに努めるとする努力規定である。
 「資金の融通」とは、地方債を発行する際に、国が政府資金等により引受けを行うことであり、「資金のあっせん」とは、同じく起債時に、民間金融機関等による引受けをあっせんすることをいうものである。
第7条(技術上の指導等) 本条も地方公共団体に対する国の支援に関するものであり、求めに応じて、内閣総理大臣には技術上の指導又は助言を行うことができることとなっている。「求めに応じて」ということは、歴史資料として重要な公文書等の保存及び利用という事務は、地方公共団体の固有事務であることを考慮するものであり、「技術上の」ということは政策上の判断は含まれず、公文書館の運営に関し、歴史資料として重要な公文書等の保存及び利用に関する技術的な指導等が中心となるものである。
附則第2項(専門職についての特例) 本項は、現在、専門職員を養成する体制が整備されていないことなどにより、その確保が容易でないために設けられた特例規定である。

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